虫を蹴りに

思い出だけに生きるひとが死ぬ
そして
かたちは向こう岸で針金として曲がる
そろそろ
友達が死ぬ季節だから
まるいドーナツを頬張り雷鳴を聞く
缶の中で暮らすひともいて
夕陽には文字の気配さえ映らず
あの日生きていたことをただ伝えたくて
言葉は湯船の中で消えてゆく
路面電車にいる幽霊たちが
ペットボトルのお茶をにぎりしめて
その先にある渇きに備えている
犬の慰めが猫に噛まれる時間の反転の中で
泳いでいるうちは溺れないと
冒険家は信念を脳につむいで
実家の自転車が盗まれていないか気になり始める