虫を蹴りに

思い出だけに生きるひとが死ぬ そして かたちは向こう岸で針金として曲がる そろそろ 友達が死ぬ季節だから まるいドーナツを頬張り雷鳴を聞く 缶の中で暮らすひともいて 夕陽には文字の気配さえ映らず あの日生きていたことをただ伝えたくて 言葉は湯船の中…

怪物の夏

黄金 と夏 あなたを殺したのは私です なぜあの時あなたを殺さなければならなかったのか 今でも私ははっきりとそれを語ることができないでいます 他の人ではなく あなたでなければならなかったこと 記憶の鎖のようなものがいつまでも私から消えないままです …

AI

論争の下で橋を渡った 犬の「棒」が静かに渦をつくる 海苔と餅 風が吹いたら映画館に行くべき(さ) 舞台上で激しく動揺する才能が川を泳ぐ 熊とは別居しながら(いない)通信している 死体を見るのは(いない)はじめてだった 性交の理由を枝に尋ねる (い…

名無しの首

首に出会ったのはいつだろう 正確なことはすべて燃やした 首は無口でまるで死んでいた 金属のような瞳と腐乱した唇 事実は不幸な音しか奏でない 生きようとする意志の廃墟で 履歴書には「首」とだけ書く 役に立たないものを生かすと 世界が変化する気持ちが…

軽蔑

犬が入った袋に ちいさい人間が 粗末な札を持って 生きていた 死んだ人間のために 詩をひとつ書いて 貨幣に交換すると ファミレスで贅沢をした ちいさい人間は 成長できず 硬貨よりちいさい自分を 手軽に憎んだ 殴られて ある日 気付くと死んでいた 詩はまだ…

ひょっとこをなめるな!

「なめちゃダメだ」 怒りのシンジはつぶやいた 六畳一間の孤独なサイドにて 巫山戯た体操座りなぞをしながら そのつぶやきは下品にかがやきながら 死の世界に突き刺さる石碑となる(嘘) 雄と雌のあいだで交わされる無意味 石碑を読み上げながら笑うタヌキた…

あなたは我々によって生まれた

わたしたちは 廊下に立たされながら バケツなどを持って 「ヒットの確率のはかなさ」について 真剣に考えていた チャイムのベルがなっても タカハシの授業に出ることはなかった 「売れる!」と確信して 隣にいるタカノリの 肩をこわすくらい叩いた その日地…

修行中の世界

アホのように晴れ渡る空から 垂れてくる醤油がある たくましく生きるあなたは知らない 本気で嘘をつく時の本気が嘘でないことを 蜘蛛のお尻を撫でる爺が教えてくれる 「ブスなあなたに一目惚れしたよ」 踏まれた土が雪にいじられて 踏まれた土が雪にいじられ…

空間

殺人茶碗が お茶をはこぶ 無関心撮影班が 待つイノセントルーム ループもワープも 輪廻の爺婆の性欲の前で 完全無力で神様は会社早退 あたらしい生命に名前を付けて 「こいつ、アホですわ」 関西の猫が関東の猫の 尾を焼くような厄介な状況 笑いの生まれない…

恐怖の秋

誰かさんが見つけた 恐怖の秋見つけた 恐怖はことばではなぞれないつめたさ そのつめたさは皮膚の奥に 皮膚がたどれない感覚をあたえて ああ 恐怖 ああ 恐怖 傷口がある幽霊は存在しない 傷口は生きている者だけに開く 傷口がないのに痛みがじわじわつたわる…

あたらしい朝

わたしはまよいながらあるく あるきながらまよう まようからあるくかいすうがふえる あるくからまようかいすうがふえる ねこはしずかにかたりかける 「どのようなまよいもあるきのなかではむいみだ」 むいみなことはまよってもいみがないから いみがないまよ…

あゝ 青春ゆるりとゆるるりと

痒みをおさえるために詩を書くことを勧められた おかげで青春はなくなった 詩に奪われる人生の残金支払いは どの窓口でおこなえば ただしい朝が来るのだろうか 悲観を彫刻する近代のひとが 前歯を折りながら笑っている 空想をおやつにしていた思い出が 下水…

不自由な造型

あなたは誰ですか? おばあちゃんですか? おじいちゃんですか? 不自由な造型として 怪獣の前に差し出された 元祖栗饅頭ではありませんか (「元祖」って何やねん) 半分は死んでいるので自由だし 虫の息 掻き毟り過ぎた夜の向こうに 気分を害するような朝…

初老に告ぐ

朝起きたら詩人が死んでいた たぶん死ぬだろうなと思っていた 詩人はもともと癌を患っており 何度も食べ物をくちゃくちゃして 吐き出すこともしばしばだった 煙草も酒も女も最後までやめられず 典型的な近代の文学青年を気取り 時給730円(税込)の清掃をし…

河童の勃興

どっこいしょ 俺たちは河童だ YEAH うんざりするくらい 頭はお皿のように 磨かれている河童だぞ YEAH 帝国で生まれて 帝国で死ぬのが 俺たち河童なのさ YEAH どっこいしょ 俺たちは河童だ YEAH 胡瓜を食べてやるぞ 胡瓜を寿司で包んだら 「カッパ巻き」と呼…

方舟

頭が痛くて学校を早退したら いつの間にか方舟に乗っていた 他の乗客も世界からはぐれたがっているように見えた 顔はない 「希望が好きな方はこちら」という看板の裏で 猫が笑っていた 顔はない 神経の尖端から蟻のようなものが 走り出しては 泥の中で踊る羊…

ふつうの男

その男のことを「神」と俺は呼んでいる それは彼があまりにも「ふつう」だからである 彼はある派遣会社に勤める32才の男だ 趣味は野球観戦とドライブ 恋人はいない 自分のことを「ふつう」と呼ぶひとは多いが その「ふつう」は彼/彼女にとってのそれであり …

詩集を買いに

おじいちゃんが書いた詩が 本になったというので おばあちゃんは書店へ向かう デス・ロードをバイクで駆け抜ける 白塗りのひとたちが 何をしゃべっているかわからない いきなり話しかけてくる 「俺を見ろ」 「うるせえ」 自己を神格化するアホをまともに見る…

文体の憂鬱

「お前が書くものは悉く詩ではない」 批評犬に指差されて 笑われるレストラン 「あ、大丈夫っす、自分ら趣味ですから」 フリードリンク制ではなく コーラ1杯600円程度の請求が続く 非正規雇用の神々は 線路上に立っているような時間を過ごす 「パフェとか食…

はいからはくし

はくちどろどろ はいからどろどろ ちのようなぽえじー しのようなめろでぃ ぼくときみがであうさかでは きみはぜったいにわらわないし ぼくはわるいよくぼうむきだし ぶんらくのようにしはいされて はくちどろどろ はいからどろどろ ちのようなぽえじー しの…

初日の顎

俺たちは 顎が砕ける日まで 本日から 自由を走るブリキの おじさんおばさん 物欲に呑まれて 性欲に呑まれて 酒と艶歌と通販で 人生カレンダーの 余白埋めてますわ 走れジジイババア グラウンドは人生より 長ぇからよ鬼監督は 蕎麦食べながら つまらない詩集…

ペガサスストーン

君と 出会うために 癒しを殺してきた ペガサスストーン 詩に 出会うために 余白を言葉に噛み殺させた ペガサスストーン 星に 出会うために 虚構の結合をミキサーで粉砕した ペガサスストーン 神に 出会うために まとまらない人生を井戸に落下させた ペガサス…

矢射る豚の路地へ

まだ詩を書いていたよ ババア 飽きもせずに ことばと恋愛中って 何だそれ ダサい歯車の いかがわしいにおいしきつめて 俺のお尻に噛みついた豚を 射るお前の瞳は ポエム愛 剥き出しの改行と抒情で 銭を集めるような ライフ 西脇の詩を読みながら もう永遠ま…

ミイラの性交

ミイラの性交は 神秘的であり 通俗的である 乾いたくちびるの 精神を病んだひらひら 「姉さん、そこは崖ですよ」 純粋な性器であるが故に渇く ミイラの性交は 存在のオルガスムをえーえんに 「きたねぇはだかでやかましいわ」 洞窟を愛の巣にしてはならない …

『贋作 中原中也詩集』制作開始

今年年末か来年に、発表予定の『贋作 中原中也詩集』の制作を開始した。 一昨年に執筆した「贋作 世界の構造」に続く「贋作」シリーズの第二弾であり、 近代詩⇄現代詩の新しい可能性を試みる企画のひとつである。 再度、中原中也作品を読み解きながら、新し…

鰤人間

昨日も嵐だったね マイケル お前のひとり芝居は 本当に薄っぺらい人間観察だな 腹がちぎれて 大根が飛び出す 噴水の前で銃撃戦してから マクドナルドのいつものやつ 手が血まみれになったら ベルを鳴らして死んでくれ そこが天国でもお前は充分詩人だ 土俵で…

最後のスプーン

からだを脱ぐと まっすぐに私だ もう曲がることもない 世界を呑みこんで 私のような影は わらっている 脳の微風地帯において マッチ棒を立てれたら おいしいおやつがもらえる 猫の額に潜む神様(仮)が 世界を埋め立てている あなたの自転車がひとり走る 海…

前歯なし物語

被告人は前へと云われ 私は無実ですと林檎を剝く 変態というラベルが 男を完全な鬱へと変えた 駱駝の瘤に跨って 脳内茶屋で歌留多を始める 御伽草子のような屁にはあらねど 武家屋敷で金髪の猿が発情する コンビニではたらく労働者の一員として 明日は出征の…

橋の旋回

空がちぎれたら 君とおりがみでもしよう 胸から鳩が飛び立ち その駅に約束は残っていない 未来は過去の狙撃手の視界で踊る 水は吹き飛んでゆく オルゴール銀河で 桃から汗が芸人のように噴き出し 笑わない笑いは 皮膚の政治を鮫肌に変化させて 逃げる

最上階の絶望

最上階で 猿がうどんをすする うどんは犬がゆでている わたしが会社を早退したことが原因で どこかで誰かが苦しんで死にました 他人のことなので特に問題ありません 靴紐で死ねるような気がしたので 靴屋には近づかなくなった母が ことばの湯に脳を沈めて 「…