修行中の世界

アホのように晴れ渡る空から
垂れてくる醤油がある
たくましく生きるあなたは知らない
本気で嘘をつく時の本気が嘘でないことを
蜘蛛のお尻を撫でる爺が教えてくれる
「ブスなあなたに一目惚れしたよ」
踏まれた土が雪にいじられて
踏まれた土が雪にいじられて


労苦の果ての土俵でつくるちゃんこ鍋
誰との接点も持てない力士の自殺
死にながらスマイルスマイル
ひとはあらゆるものを私有しようと
柿の種を飲み込んでみせたりする
「居眠り運転ですか?」
踏まれた土が雪にいじられて
踏まれた土が雪にいじられて

空間

殺人茶碗が
お茶をはこぶ
無関心撮影班が
待つイノセントルーム
ループもワープも
輪廻の爺婆の性欲の前で
完全無力で神様は会社早退
あたらしい生命に名前を付けて
「こいつ、アホですわ」
関西の猫が関東の猫の
尾を焼くような厄介な状況
笑いの生まれない演芸ホール
無関心撮影班は演出を殴る
感情の起伏だけがグラフ化されて
モニターに映し出されている
それを毎日眺めている
暇潰しの虫たち
あるいは私たち
ひとの背中に書かれた文字が読めず
殺人茶碗に最後は
誰かの血が注がれる
無関係や無関心が言葉を裏切るミュージック
遠い星の断片的記憶
狂気の脳の静かな燃焼
胎児たちからのメール
「創造主が本日解雇になりました」

恐怖の秋

誰かさんが見つけた
恐怖の秋見つけた
恐怖はことばではなぞれないつめたさ
そのつめたさは皮膚の奥に
皮膚がたどれない感覚をあたえて
ああ
恐怖
ああ
恐怖


傷口がある幽霊は存在しない
傷口は生きている者だけに開く
傷口がないのに痛みがじわじわつたわる
幽霊ではそれを増強できないもの
ああ
恐怖
ああ
恐怖


誰かさんが見つけた
恐怖の秋見つけた

あたらしい朝

わたしはまよいながらあるく
あるきながらまよう
まようからあるくかいすうがふえる
あるくからまようかいすうがふえる
ねこはしずかにかたりかける
「どのようなまよいもあるきのなかではむいみだ」
むいみなことはまよってもいみがないから
いみがないまよいはあるくむいみをあるくだけだから
あるけどもあるけどもまよいのいみはむいみにならないから
まようことがむいみではないにしてもあるくだけだ
あるくだけでじゅうぶんにこうふくなむいみだ

あゝ 青春ゆるりとゆるるりと

痒みをおさえるために詩を書くことを勧められた
おかげで青春はなくなった
詩に奪われる人生の残金支払いは
どの窓口でおこなえば
ただしい朝が来るのだろうか
悲観を彫刻する近代のひとが
前歯を折りながら笑っている
空想をおやつにしていた思い出が
下水道を流れてゆく音を
足裏が聞いている
多数からのぞき見される過去にはドラえもんも行けません
卓袱台の片隅で青春が週刊誌を読んでいる
タバスコをたくさん含ませて殺したら
そっとあいつを過去の駅で停車させよう

不自由な造型

あなたは誰ですか?
おばあちゃんですか?
おじいちゃんですか?
不自由な造型として
怪獣の前に差し出された
元祖栗饅頭ではありませんか
(「元祖」って何やねん)
半分は死んでいるので自由だし
虫の息
掻き毟り過ぎた夜の向こうに
気分を害するような朝が来るのも
猿の尻
「センス」の無根拠ぶりを示す仕事が
酒を飲むことと女を抱くことだった
しばらくバスを待つ
カバは動物園でお笑い番組を見ている
売れない芸人よりも売れている詩人の方がマイナーである事実が
今日も世界の治安を守る
バカの歯が抜けた
みちびかれたこたえに意味はなかった
水着から性器とろとろ
千年ビンタ
この世界で意味があることとは
意味がないことを排除する行為に過ぎず
詩はリサイクルショップも買い取らない
只より高いものはない(笑)
吐き気がひどいので
みんなで水たまりに飛び込んだ

初老に告ぐ

朝起きたら詩人が死んでいた
たぶん死ぬだろうなと思っていた
詩人はもともと癌を患っており
何度も食べ物をくちゃくちゃして
吐き出すこともしばしばだった
煙草も酒も女も最後までやめられず
典型的な近代の文学青年を気取り
時給730円(税込)の清掃をし続けた
清掃をしている職場では
ただの顔色の悪いジジイだった
従業員たちから階段の上から唾をかけられて
「生まれてすみません」と謝り続けた
詩人のルーツには萩原朔太郎の詩があった
朔太郎の詩は慰めではなく
精神が歪む直前で人間が人間であり続けるための
密やかな条件のようなものであった
かろうじて自分が自分であるような
涙でも消せない痛みを積み重ねて
コンビニで深夜に買う残り物の弁当の塩分に
人生の最後を重ね合わせてみたりした
時計の針が詩人の死を待ち構えている
もう死んだ者の話はやめよう
これから死ぬ者にとってはそれはただのゴミだろう
詩は地上には残らない
残っているのはどこかで自分が自分であることを願う
ゴミのような汚れた魂たちの地獄へ辿り着くまでに
経験するアホのような踊りなのだろう