河童の勃興

どっこいしょ
俺たちは河童だ
YEAH


うんざりするくらい
頭はお皿のように
磨かれている河童だぞ
YEAH


帝国で生まれて
帝国で死ぬのが
俺たち河童なのさ
YEAH


どっこいしょ
俺たちは河童だ
YEAH


胡瓜を食べてやるぞ
胡瓜を寿司で包んだら
「カッパ巻き」と呼ぶぞ
YEAH


どっこいしょ
俺たちは河童だ
YEAH

方舟

頭が痛くて学校を早退したら
いつの間にか方舟に乗っていた
他の乗客も世界からはぐれたがっているように見えた
顔はない
「希望が好きな方はこちら」という看板の裏で
猫が笑っていた
顔はない
神経の尖端から蟻のようなものが
走り出しては
泥の中で踊る羊たちが黙示録を読む
クールな世界だ
鯨は方舟に衝突して自らの鯨を吐き出す
どこにも行けなくなった時代で
風船がわれる
きれいな孤独の裸身が方舟で遊んでいる
風景は過ぎる

ふつうの男

その男のことを「神」と俺は呼んでいる
それは彼があまりにも「ふつう」だからである
彼はある派遣会社に勤める32才の男だ
趣味は野球観戦とドライブ
恋人はいない


自分のことを「ふつう」と呼ぶひとは多いが
その「ふつう」は彼/彼女にとってのそれであり
世間の基準のようなものを自分流にこしらえて
「ふつう」と言っているだけに過ぎない
至って「ふつう」でない人々なのだ
今日も個性が熟成されてゆく


日没にうつくしい風景が遠くからやって来る
そしてしばらくすると太陽はふて寝をする
夜の色気には勝てないらしい
猫たちの屋根の上を
鞠が人生のように転がってゆく


ふつうの男は今日も自らの「ふつう」を気にも留めず
猫よりも純粋に人生を楽しんでいる
絶対的な「ふつう」が銀河の闇のなかできらきらひかる
春の海のように澄んだ無個性な清々しさである

詩集を買いに

おじいちゃんが書いた詩が
本になったというので
おばあちゃんは書店へ向かう
デス・ロードをバイクで駆け抜ける
白塗りのひとたちが
何をしゃべっているかわからない
いきなり話しかけてくる
「俺を見ろ」
「うるせえ」
自己を神格化するアホをまともに見るために
両眼がある訳ではない
ちいさな爆弾を預けて立ち去るおばあちゃん
カッコいい
そして白塗りのひとはきたない死に方をする
爆音の中で砂漠を駆け抜けるおばあちゃん
「緑の地」と呼ばれる書店を目指す
水を飲んでると
栗の棘のような車がやって来て
訳のわからないことばで語るひとが来る
「てめえは詩人かよ」
デス・ロードは詩人が生き残れるような場所ではない
おばあちゃんは乱射しながら駆け抜ける
罪が罪を笑うくらいに正義はない
正義になりたい奴は自由に名乗り出て生きればよい
しばらくして悪の王(中二病)がおばあちゃんに
殺される
歓喜するひとたちが水で乾杯する岩場
「希望を抱くことは絶対にするなよ」
そしてようやく書店「緑の地」
おじいちゃんの詩集を手に取る
「高いな」
おばあちゃんは詩集を買わずに
元来た道を戻る
詩集はどれほどの困難をくぐり抜けた戦士にも
高価に感じられる
おじいちゃんの詩集はまだ世界で
一冊も売れていない
売れる気配がない
おじいちゃんはつぶやく
「俺はマックス」

文体の憂鬱

「お前が書くものは悉く詩ではない」
批評犬に指差されて
笑われるレストラン
「あ、大丈夫っす、自分ら趣味ですから」
フリードリンク制ではなく
コーラ1杯600円程度の請求が続く
正規雇用の神々は
線路上に立っているような時間を過ごす
「パフェとか食べたいけど、家計的に無理」
トイレにゆるキャライラスト入り色紙
「愚痴ばっか言わんと何があっても前を見て進みなさい byお母ちゃん」
こわい時代だ
精神に刻まれる奴隷制と時給制が
コンビニのバーコードなぞる効果音を想起させる
早く死なせろ


ひとが詩を書きはじめることに大した理由はない
サウナの後で水風呂をあびて
「詩を書くことは、私の運命だと思う」
本気ですか?
詩の雑誌に3年間投稿をして
佳作2回と掲載1回
サウナにはよく通っているらしい
出版社に「某誌に掲載された実績あり」と売り込み
売り込みと関係なく○○万円程度の製作費を支払い
「詩集」として世に発表する
発表後はやり遂げた表情でサウナ
誰からも声はかけられない
我慢できずに「詩集」を他者に見せる
「○○さん、すごいね!本まで出してるんだったらプロだね、プロの詩人さんだね」
これを俗に「詩人の誕生」という
正式な認定書は犬のお尻拭きに使用されて
「飼い主よ、お前なかなかいいな」
詩も詩人もシステムの中で量産される
サウナだろ!


誰のためでもない競技場の片隅
文体たちが冷え込んでいる
死んだロバの空虚な瞳キラキラと
技術は死んだか殺された
いい湯だな
今は偶然のめぐみを信じた書き手たちが
平和や幸福をベースにした詩を書いている
「今回はうまくいったわ」
午後からはマッサージの予約
カフェでのんびり詩集を読んで
書店で新詩集を取り出して手に取っては
置く
現代の詩人たちは忙しいですね
犬たちは文体たちの憂鬱に肩をまわし
銭湯からぼんやり未来を見ている
「新しさ」を口にした詩人が罰せられる時代
正規雇用の神々がコンビニで肉まんを買う
ことばの賞味期限偽装されてないかな?
昆布のような闇深々と

はいからはくし

はくちどろどろ
はいからどろどろ
ちのようなぽえじー
しのようなめろでぃ


ぼくときみがであうさかでは
きみはぜったいにわらわないし
ぼくはわるいよくぼうむきだし
ぶんらくのようにしはいされて


はくちどろどろ
はいからどろどろ
ちのようなぽえじー
しのようなめろでぃ


めろんのようなかたちがこどく
おれんじのようなかたちがあい
あらゆるかんじょうはものでせつめいされ
ことばはせつめいにもちいられるだけ


よるにちをはきだして
ゆきがぼくのこころをあらわした
あさにしをかきだして
もじがきみのこころをあらわした

初日の顎

俺たちは
顎が砕ける日まで
本日から
自由を走るブリキの
おじさんおばさん
物欲に呑まれて
性欲に呑まれて
酒と艶歌と通販で
人生カレンダーの
余白埋めてますわ
走れジジイババア
グラウンドは人生より
長ぇからよ鬼監督は
蕎麦食べながら
つまらない詩集を眺めて
鼻をほじってコンビニ強盗した
顎は既に砕けていた
僕は初出勤でバイトで
顎が痛い上に詩人だった
つまらないことすな!